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個人的な日々の記録です。

潜水服は蝶の夢を見る

脳梗塞で倒れ「ロックトイン・シンドローム」という『意識は正常だが、体が一切動かせない』という症状に陥った男、ジャン=ドゥーの話。彼が動かせるのは、左目のみ。彼は、周りの人間の協力のもと、左目の瞬きだけで本を書き上げた。その本のタイトルが『潜水服は蝶の夢を見る』。潜水服は身動きできない彼の体、蝶は自由に飛び回る彼の想像力。
実話だそうだ。すごい。


シリアスになりすぎない雰囲気と、それでもやっぱり訪れる切なさと、絶妙。高齢で家から出られないジャン=ドゥーの父親が、「こんな風におまえと話さなきゃいけないなんて、嫌だ」とおいおいと電話の向こうで泣くシーンなんか、悲しいんだけど、なんかちょっとコミカルだったりもする。
映像もきれい。ジャン=ドゥーの固定された視線に沿っているので、見慣れない視点から撮られた映像が続く。こういう撮り方されると見ているこっちは気持ち悪くなったりすることがあるけれど、この映画はむしろそれがよい。
映画はとても穏やかで良かった。


しかし、身体がまったく動かない、なにもできない、という状態は、一体どういうものだろう。ひたすら精神の旅をするしかない。映画の冒頭、彼も言っているが『それが生きることか?』。彼の状況では、生きる希望=再び動けるようになること。映画の中で治療師が懸命に彼にリハビリをさせるのだが、舌がかすかに動いただけで大喜びという現実。希望は気の遠くなるような向こうにある。
本の出版の10日後にジャン=ドゥーは亡くなったらしい。こんなことを言ったら怒られるかもしれないけれど、彼も「もういいや」と思ったんじゃないだろうか。このまま生き続けるのも、疲れるしなと。


映画の中のジャン=ドゥーは軽やかだ。実際の彼もこんな感じで、軽やかに平穏な気持ちで亡くなっていったんだといいんだが。
そのうち本も読んでみたいと思う。

(21本目 ★★★★☆